何時もは夜明け前からの出発だが、今日は遅い。09:15に浜に着き、ポイントに着いたのが09:55、空は曇り空で東側(山側)は雨雲。雨は避けられないかもしれない。天候が悪化するだろう12:30までが勝負だと思う。現在海は静か。雲の電気を嫌がり青物は深い場所へ移動している可能性が高いので、今日は水深70mから始める。
10:20・・何も当たらない、潮が思ったよりも遅いのと、ジグをスライドさせるため、そしてもう少し潮に流すために200gから120gにジグ(シャウト!のスライドアクター)を変える。海底から30mほどの所に潮目がある。追い食い10mとして、30mラインの前後10m、すなわち海底から20m〜40mを2ピッチのショートジャークで4mごとに大きく振り上げラインスラッグをつくりスライドさせて攻める。
底から40mでドスン!と当たる。合わせるがフッキングはしない・・背筋がゾクゾクする、大物は一度では食べない、体当たりして弱らせてから食う事が多いのだ。すぐに海底から20mまで弱った魚のようにラインを軽く触りながらテンションフォールさせてからショートピッチでジャークさせると、ドスン! 思いっきり合わせる、来た!!
大物特有のコンマ5秒ほどの静寂に、上半身をべったり伏せてファーストランに備える・・・初っ端からスプールから煙がでそうなほどの勢いでラインが出る、斜め下に突っ込んでいくので竿先をカヤック側面に寄せてカヤックの安定を揺るがすギリギリにドラグを調整する。これが戦いの要だ。
時計に目をやると10:30ジャスト。
魚とラインがカヤックの前後と一致しているので、ファーストランが止まった瞬間から強引に巻き上げるも、同時にラインが出て行く。身体を半分伏せたまま竿を45度立てて力の限り巻き取りながら片目でスプールに目をやると、巻き取る分よりも若干ラインが出て行く量の方が多い・・・想像よりも相手は大きいらしい。この状態でポンピングをせずに、強引に巻き取った時に巻き勝つようだと過去の相手は20キロ以下だった。今は出て行く方が断然多い。
魚の走る方向は沖の方角なので、これ以上ラインを出したくないのと、疲れさせるために再度上半身を伏せてドラグを90度締め、カヤックごと引っ張らせようとするも、竿先が海中にどんどん持っていかれる。しかしここでカヤックのスピードが出始めてドラグはならない。100m・・・いや200mは走ったか・・全然止まらない。
魚の走りが止まり、ラインスラッグが出たので、反対方向(カヤック側)に向かって(戻って)きていると思い、力の限りラインを巻き取っていると・・・左側面20mほどの海面から信じられない大きさのバショウカジキがジャンプする・・・内心30キロオーバーのガーラだろうと思っていたので、ラインがカジキの口とつながっている事に気が付いて驚く。
どうみても40〜50キロはある・・・しかもカジキ・・・内心不安がよぎり弱気になったその瞬間に「これがやりたくてココに来ているんだろ!!」と自分で自分に大声が出る。覚悟が決まる。
数回ジャンプしたカジキは・・その後すぐに海底にまっしぐらに突っ込んでいくので、ドラグを90度戻し上半身を全て伏せて竿も伏せて竿先もカヤック右側面ギリギリにつけて備えるが、2秒ほどで50mは出される。一度竿を海中に突っ込んでガイドを冷やす。
どうみても勝ち目が無いように感じるが、やれるだけの事をするしかない。
竿を海面と水平に構え、竿尻は左脇に、右手も添えて垂直に上半身を伸ばすようにポンピングを始める、バランスの中心は常に頭の上におく。一回一回悲鳴と雄たけびが出る。全く動かないので、力の支点をぼかすように、左右にいなしながら上げるとジリジリと上がりはじめる。しかし右手を離した瞬間にもっていかれるので、せっかくできた僅かなラインスラッグが巻き取れない。この時に左肩前部に焼けるような痛みを感じ始める。
諦めずに水平ポンピングをくりかえし、20mほど巻いたところで突如右側面に真横に走り始める。カヤックは真横を向いたまま引っ張られていき波がカヤックに大量に入り、カヤックも不安定になるので、再度上半身を両足につけて伏せ、竿先もカヤックに収める。竿先がカヤック前方側面に移動したのと、下半身を数回よじってカヤックの向きをカジキ側に向き直す。その時にダブルリーフの外側端に向かっていて、後20mほどで水深20mの所に行く事が分かる。
上半身を45度に戻し、ドラグを90度締める。一度身体は45度のまま竿でラインスラッグを一瞬作り、それを利用して瞬間的に腹筋と背筋は下方向、上半身は反対方向すなわち引き寄せるように力の限りの鋭いジャブのようなショートフックを連続で食らわす。バランスを保つために竿は鋭く引くが、その瞬間身体は前に倒す感じ、鋭く抱き寄せるような感じだ。10〜20キロほどのガーラなら5回前後で方向を変えるのに、全く変えないので50発ほど入れるも自分が酸欠になり、またこの時に右肩の前部の筋肉も激痛が走る。しかしカジキは方向を沖目に変えた。ドラグを90度戻す。左肩は今の50連発で中部まで痛みが広がっている。背中にも違和感。呼吸がとても苦しい。
再度ラインスラッグが出たので、再度ジャンプすると思い、力の限り高速でリールを巻くと、ラインスラッグ無しの状態で沖側でジャンプする。この時口の根元から10センチほど見えていたジグが、20センチに変わっている。口の内側からしっかり二本ともフッキングしているらしい、それにジグを噛んでショックリーダーが助かっているかもしれないと感じる。
ラインスラッグを出さずに常にテンションをかける事、あまり大きく横に走られるとラインと魚体が水平に近づきフォークテール(尾びれ)でラインを切られる恐れがあるので、カヤックと相手の距離を開かせない事・・・過去に大物にやられて散々言い聞かせてきた事が頭をよぎる。
最初と同じで、ジャンプ後にまた海底まっしぐら・・・再度上半身を伏せて竿もカヤックと水平にする・・・PEラインが聞いたことのないキリキリした音を出す・・・ガイドの温度が心配になり再度海中に突っ込んで冷やす。
カジキが動かない・・・真下60mにいる、竿を左右にいなしながら水平ポンピングでジリジリと上げ、急いで右手を離して巻き取ると少しだけ巻き取れる。カジキが疲れている!自分の左腕の上腕二頭筋部分が焼けるように痛い。広背筋の左側にも激痛を感じ始める。呼吸も整わない・・・自分も弱っている・・・。
時計を見ると11:05 。
カジキが上下に頭を振る・・・やはり疲れている・・・構わず悲鳴と雄たけびを上げ続け水平ポンピングを数える・・・い〜ち!に〜い!・・・一度に20〜30センチほどしか上がらない・・・ひゃーく!ひゃくいち!・・・背中の左側と腰の左側に激痛、やがて激痛を通り越し力が入りづらくなる。完全に損傷したらしい、しかし気持ちは全く折れない。気が遠くなるほどのポンピングの連続に、身体中きしむような痛みが走る。
突如走り20mほどラインを出されたが浮いた!見えた!
右前方30mほどの所にいる!
ショックリーダーのノット部分も遠くに見えている!カジキもかなり疲れているのが分かるので、少し強引に巻き取るもとんでもなく重い・・・ショックリーダーが来た!残り15m!10m!5m!あ!ここで愕然とする。カヤックと同じくらいの大きさだ・・・上がらないだろ、カヤックには・・・どうしよう・・・。
カジキが力を振り絞るように前に進む、ドラグがなり20mほどラインが出る・・・結構な速度でカヤックも引かれる、方向は浜に向かっている、正面の景色からリーフからはずれていて水深50m〜40mが続く場所だと分かる。場所は安全だ。
徹底的に弱らせてから・・・弱らせてから・・・どうする!?いや、迷っている時間はない、まずは弱らせろ!
再度カジキを寄せるも、頭が自分の方に来ないので尻尾の近くをギャフでかけて持ち上げてみる、全く重くて上がらない・・・ついでに強烈なフォークテールパンチを10回くらいカヤックと自分の腰右側に食らってこれが結構痛い。ジグのフッキングを確認してギャフを外す。
少し不安だが、カジキは疲れ果てているように感じるので思い切って頭を寄せてみると、来た!口にギャフをかけ、頭を持ち上げ、左手でリールのスプールをかえしフリーにして竿を置き、ギャフを左手に持ち替え、右手でナイフを出し、複数回刺す。両腕とも震えているし、力が上手く入らない事に気が付く。
あまりの重さと両肩、左腕、腰と背中の痛みに耐えながら悲鳴を上げて横抱きにする・・絶命の瞬間、この世のものとは思えないコバルトブルーに光ったヒレが忘れられない・・・もう、この状態で漕いで帰るしかない。
11:32・・・一時間経っている・・・。
***************後書き***************
不思議と何時ものような歓喜が沸き起こらなかった。最初自分はカジキと戦っていた。しかし途中から戦う相手はカジキではなく、もう一人の弱い自分自身になっていた。カジキから敵意、殺意、憎しみ、怒り・・・そういうものを感じなかったのは、カジキは「生き残るために死力を尽くしていただけ」で、私と戦っていたわけではないからか。人間の世界では「生きる事=戦う事」という感覚があるが、本来はカジキのように「生きるために全力を尽くすだけ」という姿勢こそ自然の摂理そのものなのか。
お互いが自分自身のベストを尽くすだけという状態のままラインでつながれていたから不思議な一体感があったのか。友を得て同時に友を失ったかのような複雑な心境だから喜べなかったのか・・・。
充実感と安堵感だけがあるのは、自分自身が諦めずにベストを尽くせたからか・・・。
浜に無事について、みんなは“奇跡だ”というが、本当の奇跡はあの60分の中にあり結末にはない、無事に釣り上げても例え最後にラインブレイクしても、自分にとっての価値は変わらないような気がするのはそのためだろうか。
ただ、話だけで釣り上げなかったらきっと自分は「嘘つき」になっていた事を考えれば、釣り上げる事ができて良かった思う。「逃がした魚は大きいからねぇ〜」という数人に顔が目に浮かぶ。
肉体は損傷し、あの晩はマグカップを両手で持ち上げることすらできなかったが、精神は折れなかった事がとても良い思い出だ。
厳しいスポーツを経験してきたが、あんな60分間の経験は有り得ない、まるで自分が解体されて再生されたような不思議な感覚と共に海上が恋しく感じるようになった。
何かを得れば何かを失うのが常だとすれば、自分は何を失っているのか・・・あ、社会性だ、大変!
2007年1月17日 Shu